教科書的な知識だけから膵臓を理解することは困難です。皆様が気付いていないと思われる「膵臓」について、少しずつお話をさせて頂きます。
膵臓の存在意義
人間は生命維持の為に食べ続けなければなりません。しかし、生き続ける過程で様々な場面に遭遇し、「適正な食事」を守る必要性が生じる筈です。この時、適正な食事か否かを監視する役割を担っているのが膵臓です。根本的な体力・体調・精神的バランス・摂取した食事内容等を総合的にチェックし、必要があれば様々なサイン(注意信号)を出し、時には明らかな病気を発症させるなどして“異状”に気付かせ、最終的に適正な食事に戻し、その個体を守ろうと懸命な努力を続けています。膵臓は「うるさい母親」のような有難い存在と言え、敬意を持って接するべきでしょう。
膵臓への誤解
意外にも、膵臓は様々な場面で働いています。
膵臓の働きは単に消化を助け、血糖をコントロールするだけではありません。私が最も強調したい膵臓の役割は、前項でも触れたように身体を守る監視役であることです。しかし、多くの場合、膵臓の存在は見過ごされたままです。その理由は、ごく軽微な変化でも膵臓は反応を示しているにも拘わらず、多くの場合、お腹(膵臓)が関係するとは思われていないからです。敏感なお腹からの反応は膵臓の働きの弱い方(体力のない方)に頻繁に認められますが、膵臓の存在に気付かぬ場合には大きな“混乱”につながります。余りにも軽い変化の状況では、一般的な膵臓の診断方法による検出が困難なのは当然と言えるでしょう。
「お腹あるいは胃腸≒膵臓」という認識で結構です。しかし、膵臓に関係する身体を守る為の様々な“サイン”は、お腹だけとは限りません。免疫系や自律神経系等の力を借りて、身体のあらゆる部分に注意信号を出します。そして、この「膵負荷状態」の対応が間違っている場合、最終的に強い消化不良症状や明らかな膵炎様症状等を発して強制的に“適正な食事”に戻そうと身体を守るのです。「膵負荷状態」が見逃がされた結果が糖尿病・明らかな膵炎・膵癌とも言えるでしょう。また、熱中症やインフルエンザ脳症も水分補給のみに気を取られ、お腹(膵臓)の安静を怠った結果かもしれません。
一方、膵臓が弱い方(体力のない方)はすぐに“異状”を察知し、早めに対応を取ることで大きな病気になるのを防いでいる(弱い身体を守ろうとしている)筈ですが、膵臓の存在に気付かぬ場合には同じ過ちを繰り返し続けることになります。小児における反復性の発熱や感染症、いわゆる「自律神経失調症」等がこれに相当します。
「お腹は免疫の約70%に関係する」とも言われていますが、膵臓との関わりはそれ以上かもしれません。調子が悪い時は取り敢えず「お腹も十分休める」ことが大切ですし、確認の為、膵臓のことが良く判っている医者の下を訪れると良いでしょう。
膵臓の弱い方とは
教科書的には小学校入学前までの小児・高齢者は膵臓の働きの弱い方たちです。しかし、それ以外の世代でも体質的に弱い方はおられ、外見的には細身あるいは小柄の方、体重変動の大きい方、少食・ゆっくり食い・むら食いの方、下痢・便秘を繰り返している方、声の大きい方(耳の聴こえの悪い方)、常に体調不良を訴えている方、“原因不明”の病気に悩まされている方、長命の方等です。繊細で様々な状況に対して敏感に反応しやすいタイプが多く、集団の中でマイペースを保っていたり、無意識に酒やたばこをたしなむ習慣が身についている方等もこれに相当します。これらの方々は健康を保つ為の安全域が狭く・体力も弱い為、自分の意志とは関係なく身体を敏感にさせて安全域から外れるのを防ぎ、健康を保とうとする特徴があります。
日本人は体質的に膵臓が弱いと言えますが、日常生活の中、少しでもバランスが悪い状況になると直ちに膵臓(お腹)からの“指令”が発せられ、不具合や病気を引き起こして“軌道修正”を図ります(正に「うるさい母親」的です)。しかし、このような不具合を起こすことなく弱い身体(お腹)と上手に付き合っている方も沢山おられ、日本人が長生きである理由の一つとも考えられます。一方、身体を守るサインを見逃したり、無視したり、場合によっては酒や薬に頼り過ぎて身体を鈍感なままにしておくと安全域から外れ、常に不具合を感じたり病気に悩まされたりを繰り返し、更には、体力低下時等に大きな病気にかかりやすくなるのも膵臓の弱い方の特徴と言えます。
弱い膵臓を持っておられる方の健康維持の秘訣は、如何に安全域を保ち続けるかにかかっており、これを維持する為には、弱い体質を持っているか否かの把握、本人の努力、更には、周囲の理解(膵臓の弱い方は“少数派”ですので、理解されにくいのです)が非常に大切です。そして、安全域を拡げる為には、消化能力を高める目的で常に適度な運動をを心掛けること、体力低下を最小限に食い止める目的で規則的な生活習慣を維持し割り切り上手になること、余分なストレスから解放される目的で気分の切り替えと割り切りを図ること等です。酒や薬等に頼らず敏感な身体をそのまま保ち、注意信号的なサインを見逃さず・動じることなく上手に受け止め、早期に「膵負荷状態」からの脱却を図ることが出来れば、安全域が保たれいつまでも健康的で若々しい(活動的な)人生を送ることが可能となる筈です。
膵臓が弱くなる原因
膵臓を酷使することで膵臓は当然弱くなります。体質的に膵臓の弱い方は勿論ですが、単なる「食べ過ぎ・飲みすぎ」の食習慣以外にも、ストレス・若さ・運動習慣・ホルモン・アルコール・薬・肥満(高インスリン血症)等の影響で無意識に食べ過ぎが助長されていたり、消化のハードルがぼやけて食べ過ぎに気付きにくくなり膵臓に負担をかけてしてしまうことは良く見られる光景です。また、胃切除術後の方は食べた物が速やかに十二指腸まで到達する為、早食いを強いられているのと同じ状況にさらされていると言えるでしょう。
一方、様々な原因で消化能力のハードルが下がることも知っておくべきです。このような場合、“相対的な食べ過ぎ”を起こし不具合につながりやすくなります。具体的には、加齢(特に40歳以降)・運動不足・頑張り過ぎ・生理中・不眠やストレス・生活リズムの変化・環境の変化(特に暑さ)・風邪の流行等がこれに相当しますが、不具合や病気が一向に解決されないような場合には、現状に対する不安・焦燥感やストレス等が慢性の消化能力低下を招き、更なる悪循環を繰り返すことにもなり問題と言えます。
そして、これらの状況下で生じた不具合や病気の本体が「膵負荷状態」と考えられ、身体の内外に生じる“変化”を確実に捉え、「膵負荷状態」を確実に診断し対応して行くことが非常に大切になります。