「膵負荷状態」を早期に解消することが出来れば、「うるさい母親」的な膵臓の出る幕も少なくなる筈です。
最後に、もう一度、“今の膵臓”との上手な付き合い方を考えてみて下さい。

自分のお腹(膵臓)の“強さ”を知る

『膵臓について』の項でも触れた通り、膵臓の弱い方には一定の特徴が見られます。無意識に膵臓を守っている為、「少食・ゆっくり食い・むら食い」であったり、年齢が増しても若い頃と体型が変わらなかったり、思いのほか長命の方が多かったり等がこれにあたります。この方たちは病気にかかりやすいと思われがちですが、早めにお腹からのブレーキがかかる為、小児期以外は大きな病気にかからず、無理を強いなければ比較的穏やかな人生を送ることが可能となります。彼等の生き方は正に「膵臓と上手に付き合うお手本」とも言え、大いに見習うべきでしょう。一方、お腹の弱さを実感していない方たちは、自分のお腹の“強さ”に無頓着なことが多く、時に不具合や病気に苦しむことにもなりかねません(『膵臓の弱くなる原因』の項をもう一度ご覧下さい)。いずれの場合でも、お腹(膵臓)の弱い日本人に変わりはありませんので、普段から自分のお腹の強さ(弱さ)の限界を知っておくことが必要です。

お腹(膵臓)の強さの“変化”を知る

人間も動物ですから、一時的に子孫を残す為のパワーが与えられます。そして、更年期以降(「衰退期」)は、パワーアップされていた時期に得られた「体力」を少しずつ減らして行く時期と言えます。この時期に如何に長く体力を温存出来るかが健康(=寿命)につながります。「膵負荷状態」は成長の効率化を妨げ、衰退化を早める要因の一つになるかもしれませんので、各時期の“変化”を理解した上での対応が不可欠です。人生の各時期の変化とその対応について、少し詳しく話をさせて頂きます。

小児期(成長期)

効率的な成長につなげる時期です。この時期の後半は社会性を身につける訓練をする時期でもあります。病気にかからないことと適正な食事を得ることが非常に大切と言えるでしょう。

膵臓の働きは5~6歳頃に大人と同等になると言われており、小学校入学前までは、お腹(膵臓)が未熟で弱い時期に相当します。成人で膵臓の弱い方たちと同様、身体を敏感にさせて僅かな変化でも注意信号を出し、身体を守ろうとしている筈です。しかし、対応を誤らなければ“病気知らず”への変身も可能です。成長と共に少しずつ身体(お腹)は丈夫になって行きますが、成長ホルモンの要求と実際の体力(消化能力)との違いから、不具合や病気につながりやすい時期でもあります。また、集団での生活が大半を占める為、自分の身体に合わない生活体験を強いられ、別の新たな不具合を生じることがあるかもしれません。成長期後半では性ホルモンの影響がこれに加わり、“真の自分”を見失いかねない時期です。早期に「体力」を獲得した場合、往々にして“その後の油断”につながったり、成人病予備軍と化すことにもなりかねません。一時的に差が出るのは当然ですので、常に自分を見失わない冷静さが必要です。

青年期・成人期(充実期)

社会性を獲得し、子孫を残すことを実現する時期です。充実した体力・安定した精神力を得ることがこの時期を乗り切る為に必要となります。

成長期後半からの“自己へのこだわり”が更に増し、精神的な要素も日常生活に大きな影響を与える時期でもあります。社会との関わりが強くなるにつれて身体を動かす機会が減り、逆に、食に対する要求が増え、バランス悪い身体が形成されやすい時期とも言えるでしょう。無意識にアルコールや薬に頼り、“敏感な自分”を見失うこともあるかもしれません。40歳前後から始まる体力の衰える時期を意識しつつ、制約が多い中でも自己の確立に努め、理解者を得、最終的に自分のぺースを確保し、その後の体力が衰える時代を上手に乗り切れるようにしておくことがポイントかもしれません。

更年期以降(衰退期)

少しずつ衰えて行く体力を感じながら生きて行く時期です。

お腹(膵臓)の働きも低下し(但し、小児とは異なり、“異状”を感じるのが、鈍感になっていることを忘れてはなりません)、現実と体力との板挟みから不具合を生じやすく、病気も現実味を帯びて来る時期です。今迄に獲得して来たものを如何に維持するかが健康(長生き)の秘訣と言えますが、パワーのある時に余分に獲得したものは早めに排除し、身軽になっておくことも大切です(20歳頃の体型がバランス良い状態と言えるかもしれません)。また、若い頃からの習慣をそのまま踏襲し続けることが不具合につながる場合もあります。特に男性は体力を過信する余り大きなトラブルに巻き込まれやすく、注意が必要です。一方、女性は、閉経期を過ぎてもホルモンの影響が70歳頃までは残っている為、男性に比べてアンバランス状態に強いと言えますが、お腹(膵臓)との付き合い方が下手な場合、油断をすると、早くから難聴(「炎症」が内耳に及ぶ為)が現れたり、骨粗鬆症(消化不良も原因の一つ)や膝・腰の症状(体重増加や運動不足の為)等に苦しむことにもなりかねません。即ち、いずれは小児時代の体質に近づいて行くことに違いはなく、“根本的な体質”を体力が衰える前から意識することが必要です。また、自分の理解者からの忠告を素直に受け止めることもこの時期を上手に生きて行く為に大切と言えるでしょう。そして、「人として生きた証を後輩たちの為に残しておこう」という意識を持ち続けることが、ご自身の健康にもつながると信じます。

お腹の強さの「影響・修飾因子」を知る

人は長い人生を一人で生き抜くことは出来ません。人生を豊かなものにする為、我々は様々な人との関わりを持ち、活動を続けながら生きています。
しかし、自分のペースが守れない状況下では身体への過度の負担を強いられたり、葛藤や精神的ストレスを感じることになるかもしれません。また、忙
しい日々が続くと、動物に本来必要な動くことも忘れがちにもなります。人生を上手に生きて行く為には、年齢から来る変化を知っておくだけでなく、日
常の中で体力(消化能力)のハードルが高いか低いか、はっきりしなくなっているのか、高く保つにはどうしたら良いのかを知り、「膵負荷状態」が発生
しやすい背景を今の身体に当てはめておくことが大切と言えるでしょう。

○体力(消化能力)を高めるもの:運動・妊娠・精神的な安定等

○体力(消化能力)を低くするもの:頑張り過ぎ・激しい運動・運動不足・不眠・ストレス・環境/生活リズムの変化・季節の変化(特に暑さ)・生理前後等

○不鮮明にするもの:薬・アルコール等

【補足】
努力する場面や身近な方たちとの関わり合いの中にも“落とし穴”が潜んでいます。頑張りや緊張状態・興奮状態等から解放された直後(イベントや家族との様々な体験後等に不具合を生じることは良くあることです)、疲労蓄積時(女性では生理前後)、環境・生活の大きな変化、暑い季節等では特に注意が必要でしょう。薬やアルコールに頼る毎日は身体を守るサインを見逃すことにつながります。また、「若さ」とも共通する「運動経験」や「妊娠」に関わる時期は“過信”を生む原因にもなりかねません。

過度な負担を身体に強いることには十分注意を払い、常に自分の“限界”を知っておく冷静さが必要です。

「膵負荷状態」を知る

様々な場面で「膵負荷状態」が存在することを常に頭の中に留めておくことが大切です(詳しい内容に関しては『「膵負荷状態」の話』の項で触れてあります)。

「膵負荷状態」時の自己対応

膵臓は身体の隅々に様々な症状を出して警告を与えていることは既にお伝えしてある通りです(『「膵負荷状態」の症状』の項)。

もし、“異状”を自覚するようになったら

いつもと違う症状を感じたら、取り敢えずお腹も(膵臓を意識して)休めておけば良いでしょう。これだけで改善する場合は「膵負荷状態」が疑えるかもしれません。炎症(むくみ)に伴う症状の場合は、「刺激を遠ざける・炎症部位を冷ます・炎症部位を高くしてむくみを下げる等」の対応と身体(お腹)の安静を保つだけで良いでしょう(軽い場合はすぐに良くなる筈です)。また、膵臓の腫れに伴う痛みの場合は、「膵臓を高い位置(座位・右側臥位・腹臥位)に置き、鎮痛剤(出来れば坐薬)を使用する」対応で改善が見込めます。いずれの場合でも過度な不安は厳禁で、必ず良くなることを自分に言い聞かせておくべきでしょう。回復までに要する時間はお腹の強さと初期対応の違いに左右されますので、焦らずメリハリを持たせ、出来ることを確実に実行して行くべきです。また、不具合を起こした状況を振り返り、“今回の原因”を特定しておくことも大切です。

症状が続く場合は

それぞれの症状に応じた対応となります。安静と食事のほか、短期的に膵炎治療薬の使用が有効な場合もありますが、お腹の症状以外にも様々な症状が実感されることも多く、症状が治まった後でも暫くはお腹の安静を続けることが基本です(「膵負荷状態」による注意信号的な症状を出さなければ、本格的な膵臓の安静が図られ、膵負荷の進行防止にもつながる筈です)。膵負荷が強く、お腹が非常に敏感になっている状況下では内服薬そのものが刺激になることもあり、点滴治療が有効となります。また、内服薬ではなく坐薬や口腔内溶解錠を使用する場合もあるでしょう。しかしながら、いつまでも薬に頼ることは真の膵臓の安静にはつながりません(但し、膵臓の働きを補う目的で消化酵素剤を使用するのは効果的でしょう)。様々な方策を講じることで膵臓のオーバーヒート状態からの脱却を図ることが最終目標となります。

もしも症状が良くならなかったり、同様のことが繰り返されたり、今後のことが心配であったりする場合には

膵臓のことが良く判っている医者にご相談下さい。指導を受けるにあたっては、根本的な体質を知る為の情報(既往歴・便通状態や体型の変化・嗜好品・食習慣・生活振り等)を示せるよう、整理をしておくべきしょう。

“その後”について

正常と“異状”との違いを自分なりにつかんでおくことが予防の第一歩です。その為には、正確な「膵負荷状態」に至るまでの病態把握をしっかりと会得しておくことが必要です。

食事について

以前の膵炎治療は安静・絶食と胃液を抜くのみというものでした。動物の場合、お腹を壊した後は食べ物を全て拒否し、ひたすらじっと耐えて時間が経つのを待ち続けます。この状態が「膵臓を休める為の確実な方法」にあたります。

赤ちゃんが授乳後ミルクを吐いたり、小児で咳と共に食べた物を吐き出したり(消化不良状態の為、お腹が張って吐きやすくなります)、寝たきりのお年寄りが胃瘻からの栄養補給後不具合を生じる(老人施設でのノロウィルス感染症重症化例が良く知られています)等は“与え過ぎ”を示唆する所見で、消化の働きが落ちていることを疑うサインと考えられます。また、舌やのどの違和感等の自覚や、いわゆるGERD(胃食道逆流症)等の消化管の不定愁訴も“食べ過ぎ状態”に対する注意信号とも言えます。

「膵負荷状態」にある膵臓は非常に敏感ですから、固形物は勿論のこと、少量の水分や内服薬にも反応を示します。中途半端な経口摂取は病気の遷延化や悪化・再燃につながりかねません。症状が強い場合、短期的な「絶食」を徹底すれば、不具合の早期解消が見込める筈です。脱水対策として叫ばれている水分補給は、弱っているお腹(膵臓)を過度に刺激し、“予期せぬ結末”(熱中症やインフルエンザ脳症等がこれにあたるかもしれません)につながることもあり、注意を払うべきでしょう。特に、強い消化不良状態から腹満が強くなっている場合は、お腹(消化管内部)は水浸し状態にありますので、口渇感が強くても口を湿らす程度にとどめておくべきと考えます(お腹の安静を続けることで、一端腸に出ていた水分が再び身体の中に戻り、のど渇きも改善されていく筈です)。

食事の内容については膵臓に関する情報紙面に掲げてあるとおりです。但し、“今のお腹(膵臓)”に合った内容かどうかは別問題ですので、個々の症状に応じた細かな配慮が必要となります。「膵負荷状態」の回復に合わせた食事内容が原則と言えるでしょう。また、場合によっては、膵臓の働きを補いつつ栄養素を身体に取り込みやすくする為の消化酵素剤の併用も有効と考えます。

病弱な方(膵負荷を繰り返していた可能性のある方)は体格に恵まれないこともあり、成長期には食べることを強要される場面が多く見受けられるかもしれません。しかし、これが逆に「膵負荷状態」を助長し、成長にブレーキを掛けたり、病気を繰り返す結果にもなりかねません。常にご自分の体力(消化能力)に見合う生活・食事を貫くことです。

適度な運動は消化能力を高めるのに有効ですが、もし、運動量が減っている場合はそれに合わせて食事量も控えるべきと考えます。例えば、骨折等で入院した方が骨折前と同様の食事を摂って不具合を訴えるケースはままあることですから、身体の動きに連動したお腹の安静が非常に大切と言えます。

一般的に、膵臓の弱い方の食事は良いお手本になりますので、じっくりと観察し、自分に当てはまるものは素直に採り入れるべきでしょう。

普段の食事の原則

○根本的な体力・現在の体力を意識した食事を心掛ける。

○お腹(膵臓)の負担を増したり刺激したりする食事内容や食事の摂り方を避ける。

○常に食べ過ぎない(飲みすぎない)。

○成長期であっても、“今の自分の身体に合った食事”を意識する。

○消化能力のハードルの下がる場面(夜間・週末・ストレス時・不眠・生理前後・頑張り過ぎ後・夏季・運動中止後・運動不足・年齢等)ではお腹への配慮も忘れない。

○万が一「膵負荷状態」に陥った際は、中途半端な対応ではなく、身体・心の安静、とりわけ十分なお腹の安静も心掛ける。

○消化能力を高める為、日頃から適度な運動・気分転換を図る。

薬について

膵炎に対する薬の一つに膵炎治療薬(タンパク分解酵素阻害薬:膵臓のオーバーヒートを冷ます薬)が知られていますが、内服薬の外国での評価はあまり高くないようです。その理由として、人種的な膵臓の強さの違いから発症する膵炎の程度に差があることが大きく影響している為と考えられます。しかし、この薬は、使う対象をうまく見極められれば有効な薬であることには間違いありません。そして、有効性を最大限発揮させるには、①早めに「膵負荷状態」に気付くこと、②十分な膵臓の安静を図りながら使用すること、③オーバーヒートを冷ます目的の薬(膵臓を丈夫にする薬ではありません。場合によっては、膵臓に関係する症状か否かを確認する目的で使用する場合もあります)であることを理解して使用すること等が重要となります。時に、この薬の内服刺激が「膵負荷状態」を悪化させたり、漫然とした使用が症状を隠し、お腹(膵臓)が弱っていることを忘れさせる原因になることもあり、注意が必要です。

消化酵素剤は一般的な胃腸薬とは異なり、消化不良により不足しがちな栄養を身体に取り込みやすくする為、弱ったお腹を助けるのに有効と言えます。

薬の使用に際しても「膵負荷状態」を最小限にとどめておくておくことが重要であることは言うまでもありません。

的確な診断について

生化学検査や超音波検査上の膵臓関連の微妙な変化を捉えるのは困難な現状ですが、不具合を生じた際に「お腹も休める」意識を持つことが大切でしょう。そして、膵臓の存在を意識した検査や治療を繰り返して行くうちに、「うるさい母親」的な膵臓がきっと見えてくる筈です。

膵臓の的確な診断は、今迄持っていた「膵臓」のイメージをゼロにリセットすることから始まります。そして、「膵負荷状態」の診断には、「様々な場面に膵臓(お腹)が関係する」という認識を持つことが非常に重要と言えます。

日常生活のポイント

「規則的な生活習慣・適正な食事・適度な運動・精神的安定」が膵臓を守り、ひいては健康維持につながるのは当然です。しかし、このような完璧な日常を過ごしている方は皆無に近いでしょうから、常に膵臓(お腹)を意識し、注意信号的な「膵負荷状態」の発生を最小限にとどめる生活を送る方が現実的と言えます。もし、油断して「膵負荷状態」に陥った場合でも、原因を突き止め、早急に軌道修正を図り、同様の過ちを繰り返さないよう努めて行く積み重ねこそが大切です。

一方、膵臓を支える為の努力も怠ってはいけません。

適度な運動は消化能力を高めますが、十分な運動量が確保されない場合はそれに見合う食事内容とする必要があります。しかし、時間に余裕がない方でも、何らかの形で“運動の確保”(スポーツだけとは限りません)を検討すべきです。また、体力を温存する為、一時的に「切り替え・割り切り上手」に変身することも必要かもしれません。

膵臓が弱い方・弱っている方は体力以外に精神力も低下しがちですので、自分を理解し、力を貸してもらえる人を得ることも大切となります。これだけでも随分楽になる筈です。勇気を奮って“今の窮状”を訴えてみるべきでしょう。

健康診断は明らかな病気を見つけるには有用ですが、「膵負荷状態」にあるか否かの判断にはあまり効果を発揮していないと言えるでしょう。但し、定期的に実施している検査は“体力の変化”を知る手掛かりにはなりますので、参考にすべきです。そして、最終的にはお腹(膵臓)のことに明るい医者を訪ね、今の自分に当てはまる確実な情報を貰い、“安心”を得ておくことが大切です。

長い人生を穏やかに過ごす為には、自分の身体(お腹)の強さ(弱さ)を如何に理解しておくかが重要と言えます。